賃貸オフィスを利用する場合、オフィスビル物件のワンフロアや一室を借りるという方法が一般的です。その場合、一棟のオフィスビルには複数の企業が出入りすることになりますから、どうしても企業としての個性は出しにくくなります。
しかし、オフィスビルを一棟丸ごと賃貸する一棟貸しであれば、自社だけでビルを独り占めすることができ、賃貸でもまるで自社ビルのように使うことができます。
では、オフィスビルの一棟貸しとはどのようなものか、詳しく解説していきます。
一棟貸しの3つのメリット
①コストカット
賃貸ビルを一棟丸ごと貸切る「一棟貸し」という方法があります。
一棟貸しのメリットは、賃貸でも自社ビルのようにオフィスビルを利用することができるという点にありますが、ビルを一棟丸ごと使うなんて、コストがかかりそう!と心配に感じる方も多いのではないでしょうか。
実は一棟貸しの方が通常の賃貸オフィスビルを利用するよりもコストが抑えられるケースが多いのです。一棟貸しでは、ビルの管理を自社で行うことができるためです。
一般的な賃貸オフィスビルに1テナントとして入居した場合は、共益費として管理に必要な清掃やメンテナンス、点検などの費用を支払います。これは、ひとつオフィスビルの中に複数のテナントが入っているため発生する費用です。
しかし一棟貸しであれば、自社で管理会社を選定することができるのです。できるだけ安い管理会社を探したり、毎日の掃除などは自分たちで行い、最低限の管理だけを業者に依頼するようにすれば、かなり大幅なコストカットができるでしょう。
もちろん、管理を自社で行う場合は、必ずビルオーナーさんの許可を得なければなりませんが、一棟貸しを希望しているビルオーナーさんであればほとんどの場合は管理もまかせてくれるはずです。
②制約に捉われないこだわりの内装デザインに
複数のテナントが入る一般的な賃貸オフィスの場合は、自社の雰囲気を出せるのはオフィスとして借りている空間のみ。
ビルのエントランスやエレベーターなど、他のテナントも利用する共用部は勝手に手を加えることはできませんが、一棟貸しであればこれらの共用部であっても自社らしさを演出することが可能なのです。
環境保全に力を入れている企業などは、受付や社内の内装に木材を多用するなどしてナチュラル感をアピールしていたりすることがありますが、通常の賃貸オフィスでは共用部は一般のオフィスのままとなりがち。
しかし、一棟貸しでビルに入ったところからナチュラル感のある内装により、企業が本気で環境保全に取り組んでいるんだなという印象を強く与えることができます。
また、フロアごとにイメージカラーを決めたり、ミーティングフロアやリラックスフロアなど、それぞれのフロアに役割を持たせることも可能なのも魅力の一つです。
③自社のイメージ戦略やブランディング
キレイなオフィスは、それだけでイメージが良いものです。自分がお客側として取引先を訪れた際のことを考えても、薄汚れた応接室に通されるのと、清潔感のあるオシャレな応接室に通されるのとでは全く印象が違うでしょう。
社員として働く場合もキレイなオフィスで働いたほうがモチベーションアップにつながります。
しかし、どんなに社内の内装をキレイにしていても、一般的な賃貸オフィスビルにテナントとして入居している場合はビル全体の印象が企業のオフィスとしてのイメージに影響してしまうケースも極まれにあります。極端な話、同じビルに入居していたテナントが何か不祥事を起こした場合、全く関係ないテナントまで悪いイメージを持たれてしまう危険性すらあり得ます……。
その点、一棟貸しのオフィスビルであれば、自社で一棟を自由にデザインすることができますから、思い通りのイメージなオフィスが作れます。
環境にこだわる企業なら、内装もナチュラルなものにできますし、時代の最先端を行くような企業なら、エントランスからスタイリッシュにすることで、来客者を楽しませてくれるでしょう。つまり、一棟貸しのオフィスビルは、企業のイメージ戦略やブランディングに大きな力を発揮することができるのです。
一棟貸しビルのオフィスレイアウト
フロアごとにテーマ(目的・用途)を考える
賃貸オフィスビルのワンフロアや一室を借りるのと違い、一棟貸しスタイルのオフィスならフロアごとに用途を決めて利用するといった使い方が可能です。
通常の業務をこなすワーキングフロア、ミーティングをするためのミーティングフロア、休憩時に使用するリラックスフロア…などなど。
リラックスフロアは、屋内だけでなく、屋上なども使うこともできるでしょう。夏には屋上でバーベキューなど、ちょっとしたイベントをするなど、パーティースペースとするのもおすすめです。忙しくて徹夜をすることが多い業種であれば、シャワールームや簡易宿泊ルームのようなものを設けておいても良いかもしれません。
このように、フロアごとにオフィスのテーマ分けができるのは、一棟貸しならではのレイアウトといえます。スペースの利用目的がはっきりすることで、ワークスタイルにもメリハリがつき、仕事の能率アップにもつながるでしょう。
また、来客時に使える応接室のようなスペースを通常のワークスペースとは別にとるようにしておけば、外部の人間がワークスペースを目にする機会が減りますから、セキュリティ面でも安心感が高まります。
ビル全体を企業のイメージでデザインしたりすることができるのは、一棟貸しでなければ実現できない方法といえるでしょう。
テーマを基にフロアデザインを考える
たとえば、各フロアごとに異なる目的を持たせたオフィスとする場合は、フロアデザインもその目的やテーマに合わせたものにすると社員はもちろん、外部からのお客さんにも伝わりやすくなります。
1階に受付や応接スペース、2階はワークスペース、3階はミーティングスペース、4階はリラックス&パーティーフロア…という具合に使うとすれば、1階は企業のイメージカラーや、清潔感や信頼感をイメージさせる白を基調にするのがオススメです。集中して業務に取り組みたい2階のワークスペースは、集中力を高めるブルーなどを取り入れ、たくさんのアイディアを出したい3階のミーティングスペースは、活力を与えてくれる赤を取り入れてみましょう。4階のリラックス&パーティースペースは明るく、リラクゼーション効果もあるオレンジなどがオススメです。
一棟貸しオフィスの定期点検や防災管理
定期点検について
一棟貸しのオフィスは、ビル全体を自由に使えるだけでなく、管理を自らの手で行えるというメリットがあります。
一般的な賃貸オフィスビルへのテナント入居の場合は、共益費という形で水道光熱費にはじまり、空調、エレベーター維持費、セキュリティ関連費などさまざまな費用がとられており、もっと安く抑えたいと思っても、他テナントとの共通の費用となっているため、調整がしにくいという問題があります。
その点、一棟貸しオフィスでは、入居企業の裁量次第でかなり大幅なコストカットができるというわけなのです。
しかし、いくら管理費を安く抑えたいからといって、やみくもに作業を省くことはできません。
たとえば、オフィスビルのように大勢の人が集まる建物に関しては、消防設備などを定期的に点検し、管理しなければならないことが法令で定められています。定期点検や防災管理などのメンテナンスは、賃貸契約時にビルオーナーさん側が請け負うのか、借主である企業側が請け負うのかを決めているはずですから、必ず確認しておくようにしましょう。
一般的には、必須の定期点検はビルオーナーさん側が請け負う場合が多いのですが、工場などで特殊な点検が必要な場合などは借主負担となるケースが多いです。
防災管理について
公共の建物などに入ると「防火管理者〇〇」などと書かれた小さな札が貼ってあることがあります。あまり目につかないことが多いですが、実は一定規模の建築物には、火災や地震などの防災に備えた自衛消防組織を設置しなければならないという決まりがあります。一棟貸しのオフィスビルの場合もほとんどの場合あてはまるため、防火管理者を設置する必要があります。
防火管理者は、防火管理者資格講習の課程を修了するなどの資格を有する人で、消防計画を作成したり、防火上必要な設備の維持管理などを行わなければなりません。
一棟貸しのオフィスビルの場合などは、契約によりビルオーナーさん側がこの責任を負うのか、借主側がこの責任を負うのかということが決められているはずです。ただし、最近はこれらの防災管理に関しても管理会社に外部委託してしまうというケースが多いので、直接ビルオーナーさんや借主が管理を行うわけではない場合も増えています。
いざというときに活躍する防災管理者を外部に任せるというのは不安という声もありますが、実際には専門的な知識が必要な防災管理の業務は多岐にわたるので、多少コストはかかっても外部委託の方が定期点検などもしっかり行ってくれるので安心という声が多いです。
どのような企業におすすめ?
ビルを丸ごと借りることができ、レイアウトの自由度が魅力の一棟貸しオフィス。そのため、独自のオフィスレイアウトが必要な企業には非常に使いやすいタイプの物件といえます。
たとえば、小売業や輸入代行など「販売」を主とする企業の場合は、商品の在庫を保管しておくための倉庫が必要ですが、一棟貸しのオフィスビルであればビル内のワンフロアを丸ごと倉庫に充てることができます。
一般の賃貸オフィスで、オフィスとは別に倉庫用としてワンフロアを借りるという方法もありますが、その場合は、商品を出し入れする際にいちいち他のテナントへの配慮をする必要があったりして使いづらいものです。
また、昼夜を問わず仕事が発生するような不規則な業務の企業も一棟貸しオフィスには向いています。一棟貸しオフィスでは、オフィスの管理は自社で行うことができるので、たとえ夜中であっても出入りがしやすいというのは大きな特徴といえるでしょう。ビルの一室に簡易宿泊スペースのようなコーナーを設けておけば、オフィスで仮眠をとりながら業務をこなすということも可能です。
一般の賃貸オフィスビルの場合は、通常の業務時間が過ぎるとビル全体で管理している空調や照明などがオフになってしまうことがありますが、一棟貸しであれば自社のペースで自由に使うことができるのです。
そのほかにも、外部の人間の出入りが多い企業なども、一棟貸しオフィスは向いています。面接に訪れる人や、外部の顧客など、あまり社内の様子を見せたくないという場合は、応接専用のフロアを作っておけばオフィス内部を見せることなくお客様を迎えることができます。