新たに起業して事務所(オフィス)を構えたり、現在の事務所(オフィス)から別の場所に移動する際には、新たな物件を探さねばなりません。ほとんどの事務所(オフィス)は、フロアだけを借り、内装は一から別の業者に依頼するなどして利用できるように整えます。賃貸オフィスを利用する方法としてはそれが当たり前と思っている人もいるでしょう。
しかし、物件利用の仕方には、実は「居抜き」と呼ばれる方法があります。
居抜き物件とは
居抜き物件とはどのような物件か
賃貸オフィスの利用方法には二種類のパターンがあります。
一つは、一般的によく行われているフロアだけの賃貸という利用方法です。通常オフィスを借りる場合には、借主は希望条件に合う物件の「スペース」を借ります。新築の賃貸オフィスの場合はもちろんですが、以前別の企業が入っていたスペースを借りる場合でも、通常は「原状回復」といって、内装やオフィス家具などはすべて処分し、まっさらな状態にもどしてから明け渡されます。したがって、前賃借人のパーティション(間仕切り)等がそのまま残されているケースはほとんどありません。
一方、前賃借人のパーティション(間仕切り)等をそのまま使うことができるような賃貸物件の利用方法もあります。このような物件は「居抜き物件」と呼ばれ、通常のオフィス物件とは分けて考えられます。
仕組みについて
賃貸オフィスを借りる場合は通常、原状回復が終わった状態で引き渡されます。しかし原状回復をせず、居抜きの状態で引き渡されることがあります。
前賃借人は居抜き状態で退去し、新しく借りる側は居抜き状態で賃貸契約を結ぶという居抜き物件賃借のこの仕組みは、エコでリーズナブルであるということもあって、賃貸事務所を求める企業に最近特に注目されています。
オフィス入居側のメリット
施工コストの削減
企業は原状回復がなされた空きのスペースの賃貸契約を結ぶことになりますが、こういった借り方とは別に関心が高まっているのが居抜き物件の活用です。
「居抜き」により、賃貸オフィスを借りたいという企業にとっては、施工コストが削減できるというメリットがあります。
通常、賃貸オフィスの物件を借りた場合には、そこをオフィスとして利用するために必要な設備や備品をそろえ、内装工事を行うなどの準備が必要となります。当然、設備や備品の新規購入費用がかかりますし、壁や床を張ったり、配線を整えたりといった工事を行うには、専門業者に相談して、内装やオフィスレイアウトのプランニングから施工までを依頼しなければなりません。
ところが、前賃借者の使用していた状態をそのまま借り受ける居抜きでの賃貸オフィスであれば、設備・備品の選定や購入、そして内装にかかる手間や費用などの施工コストをすべて削減することができるのです。
施工期間の短縮
通常、物件を契約してから実際にオフィスとして利用できる形になるまでには時間がかかります。なぜならば、通常のオフィス賃貸物件は、借りた直後は原状回復がなされたまっさらな状態で、契約後にオフィスの内装工事をしなければならないからです。
オフィスの内装工事などの施工期間は、物件の規模や施工内容、そして業者によってさまざまですが、一般的にはレイアウトの相談から施工完了まで2~4か月ほどかかります。
その点、居抜き物件は違います。
前賃借人が利用していた設備などをそのまま利用することができるので、極端な例でいえば契約した日からすぐにでもオフィスとして利用することができるのです。
自社の利用しやすい形へのレイアウト変更や設備の追加などを行ったとしても、居抜き物件であれば物件の選定から1か月もあれば実際にオフィスとして利用することができます。
担当者の負担軽減
新規オフィスの立ち上げ、旧オフィスから新規オフィスへの移転をする場合、物件の選定から立ち上げ、移転までを管理するご担当者は多大な負担がかかってしまいます。大きな企業の場合などは、オフィス立ち上げや移転のためのプロジェクトを立ち上げて対応することも可能でしょうが、中小企業の場合などは総務などの担当者が通常業務と兼務することも多く、かなり大きな負担となってしまいます。
まず、最適な物件を選ぶことから始まり、不動産会社やオーナーとの交渉、契約、そして新しくオフィスとして利用できるようにするため、内装工事を行ってくれる業者などとの打ち合わせ・プランニング、契約、さらには取引先への連絡や社員への説明なども行う場合もあるでしょう。
これらすべてを、オフィスの立ち上げや移転の期日までに終わらせる、というのはかなり大きな負担となります。
しかし居抜き物件を賃貸することで、内装工事に関する業務を大幅に軽減することができます。
オフィス退去側のメリット
原状回復費用の削減について
「今利用している賃貸オフィスの契約を打ち切り、もっと条件のよい賃貸物件に移転する」
特に成長スピードの早いベンチャー企業などの場合は、企業の成長に合わせてどんどんオフィスのクオリティもアップしていくものです。
しかし、ここで注意しておくべきことがあります。
それは、現在利用しているオフィスを退去する場合、ほとんどの場合「原状回復」が必要になるということです。原状回復は契約書に書かれている内容の通りに行います。
主な工事内容としては借主が設置したパーテーションやLAN配線などの撤去、汚れてしまった壁や天井などの張替や塗装などです。
原状回復工事にかかる費用は、その内容や規模によってさまざまですが、坪3万円前後、大型ビルだと15万円ほどと、かなり高額になる場合もあります。
その点、居抜きでの退去ということになれば原状回復は不要ですから、移転に必要な費用を大幅に削減することができます。
残存期間の短縮について
通常、オフィスの賃貸物件を退去する場合には、半年くらい前に退去告知をし、退去の期日までは賃料を支払いながら原状回復をすることになります。
しかし原状回復の必要がない居抜きでの退去の場合、次の入居者が決まっていれば、契約残存期間を短縮して次の入居者に物件を引き継げる可能性が高まります。
もちろん、契約の残存期間の扱いについては契約内容とオーナーとの交渉次第ですが、もし契約期間を短縮して退去することができれば、その分の賃料の節約となり、居抜き退去が企業のオフィス移転にとって大きなメリットといえるでしょう。
居抜きでの退去を希望する場合には、まずは専門の会社に相談しましょう。
まとめ
居抜き物件は内装工事のコストを省くことができ、契約してすぐにオフィスとして利用できるというメリットがあります。とにかく早く物件が必要だという企業や、初期投資費用をなるべく安く抑えたいという企業にとって、居抜き物件は特にオススメです。
今のオフィスから退去したいと考えている企業の場合なら、居抜きで退去することによって原状回復費用が抑えられるというメリットがあります。移転費用や手間を削減したいと考える企業なら、居抜き退去はかなり魅力的といえるでしょう。
また、居抜き物件に入居する、あるいは居抜きで退去する場合は、どちらもまだ使用できる設備や備品を廃棄せずに済むというメリットもあります。そのため、リサイクルで社会貢献を考えている企業にとっても「居抜き」はオススメです。
ちなみに居抜き物件を使用する場合、自社のオリジナリティが出ないのではないか?と心配する声もありますが、アレンジを加えることで自社仕様にすることは可能ですし、典型的なオフィスであれば定番のレイアウトがかえって使いやすいという意見も多いです。