更新日:2026年7月5日
オフィスの内装工事にかかった費用を減価償却しようと調べ始めると、「10年」「15年」「賃借期間」と情報が入り混じり、自社にどれが当てはまるのか確信が持てない。総務や経理の担当者からよく聞く悩みです。判断を誤ると税務調査で費用計上を否認され、追徴課税につながる可能性もあります。結論を先にお伝えすると、内装工事の耐用年数は原則15年前後ですが、賃貸物件で一定の条件を満たす場合は賃借期間で償却できます。この記事では自社・賃貸の分岐、資産区分の一覧、減価償却の計算と仕訳、資本的支出と修繕費の判断まで、国税庁の基準に沿って整理します。最終的な適用は税理士や所轄税務署への確認をおすすめしますが、その前提となる考え方はここでつかめます。
内装工事の耐用年数は10年?15年?結論から解説

最初に、多くの人が最も知りたい「10年か15年か」の答えを整理します。ポイントは、物件が自社所有か賃貸かで扱いが分かれることです。
原則は15年、賃貸物件は賃借期間で償却できる
内装工事の耐用年数は、工事の内容や資産区分によって変わりますが、建物本体と一体で扱う造作の場合は15年前後になるケースが中心です。一方、賃貸オフィスに施した内装(他人の建物に対する造作)は、国税庁の基準により合理的に見積もった年数、または賃借期間で償却できる場合があります。
つまり「必ず15年」でも「必ず10年」でもなく、自社所有なら15年前後、賃貸なら賃借期間を軸に判断するのが基本の考え方です。
10年・15年の情報が混在する理由
ネット上で年数がばらつくのは、内装工事が単一の資産ではなく、複数の区分の集合体だからです。壁や床の造作は「建物」や「建物附属設備」、空調やパーティションは「建物附属設備」、取り外し可能な家具は「器具備品」というように分かれ、それぞれ耐用年数が異なります。
器具備品に該当する設備は法定耐用年数が短めで、結果として「10年」という数字が独り歩きしやすくなります。数字だけを切り取ると混乱するため、まず区分を意識することが大切です。
まず確認すべきは「自社物件か賃貸物件か」
迷ったら、最初に物件形態を確認してください。自社所有か賃貸かで、参照する基準も償却年数の考え方も変わります。この一点を押さえるだけで、調べるべき方向が定まり、情報の混在に振り回されにくくなります。
自社物件と賃貸物件で耐用年数はこう違う
ここでは物件形態ごとの扱いを具体的に見ていきます。特に賃貸の場合は、国税庁のタックスアンサーが判断の土台になります。
自社所有物件は建物・建物附属設備で15年前後
自社ビルや自社所有の区分所有オフィスに内装工事をした場合、工事内容を建物本体や建物附属設備に区分し、それぞれの法定耐用年数で償却します。内装造作を建物と一体で捉えるケースでは、店舗用・事務所用の造作として15年前後が目安になります。
建物本体の構造(鉄骨鉄筋コンクリート造など)に応じた耐用年数を用いる部分もあるため、工事内訳を資産区分ごとに分けておくことが後の処理を楽にします。
賃貸物件は国税庁タックスアンサーNo.5406が基準
賃貸オフィスの内装は「他人の建物に対して行った造作」に当たり、国税庁タックスアンサーNo.5406が判断基準になります。ここでは、造作全体を一つの資産として、その造作の種類や用途、施工の状況を考慮して合理的に見積もった耐用年数で償却するのが原則とされています。
複数の工事が混在していても、原則としてまとめて一つの耐用年数で処理する点が、自社物件との大きな違いです。
賃借期間で償却できる条件(更新不可・買取請求不可)
賃貸物件の造作は、次の2つをともに満たす場合、賃借期間を耐用年数として償却できます。
- 賃貸借契約に賃借期間の定めがある
- 契約の更新ができず、かつ有益費の請求(造作の買取請求)もできない
たとえば更新不可の5年契約で更新も買取請求も認められないなら、5年で償却できます。合理的な見積り年数より短くなることが多く、早期に費用化できる点がメリットです。ただし「更新できる契約」では原則この特例は使えないため、契約書の条項確認が欠かせません。
資産区分別の内装工事 耐用年数一覧
内装工事を正しく償却するには、工事内訳を資産区分に振り分ける作業が不可欠です。ここで代表的な区分と目安を一覧で確認します。
建物・建物附属設備・器具備品の分け方
区分の考え方はおおむね次のとおりです。
- 建物:床・壁・天井など建物と一体化する造作
- 建物附属設備:空調、電気、給排水、可動間仕切りなど建物に付属する設備
- 器具備品:取り外して移設できる家具、什器、機器類
移設できるかどうかが、器具備品と建物附属設備を分ける一つの目安になります。
空調・パーティション・クロスなど設備別の耐用年数
設備ごとの法定耐用年数の目安は以下のとおりです(自社物件で個別に区分する場合の一般的な例)。
| 設備・工事 | 資産区分 | 耐用年数の目安 |
|---|---|---|
| 内装造作(事務所用・木造など) | 建物 | 15年前後 |
| 中央管理式の冷暖房設備 | 建物附属設備 | 15年 |
| 個別空調(パッケージエアコン等) | 建物附属設備/器具備品 | 6年前後 |
| 電気設備(配線・照明) | 建物附属設備 | 15年 |
| 固定式パーティション | 建物附属設備 | 15年前後 |
| 可動式パーティション | 器具備品 | 3〜15年 |
| クロス・床材の張替え | 建物/修繕費 | 内容により判断 |
実際の年数は構造や仕様で変わるため、確定には税理士や税務署への確認をおすすめします。
一覧表で自社ケースを照合する
照合の手順はシンプルです。工事見積書の項目を上の区分に振り分け、自社所有なら各区分の法定耐用年数を、賃貸なら造作全体をまとめて合理的な見積り年数または賃借期間を当てはめます。見積書を区分ごとに整理しておくと、この作業が一気に楽になります。
内装工事の減価償却の計算方法と仕訳例
耐用年数が決まったら、実際の減価償却額と仕訳を確認します。事務所の建物・建物附属設備は原則として定額法で計算します。
取得価額÷耐用年数(定額法)の計算例
定額法では、取得価額に定額法償却率を掛けて年間の償却費を求めます。耐用年数15年の定額法償却率は0.067です。
たとえば内装造作600万円を耐用年数15年で償却する場合、年間の償却費は「600万円 × 0.067 = 40万2,000円」となり、おおよそ15年かけて費用化します。賃借期間5年で償却できるケースなら「600万円 ÷ 5年 = 120万円」が年間の目安となり、早期に経費化できます。
勘定科目別の仕訳の具体例
内装工事を資産計上する際の仕訳例です(600万円を建物附属設備として計上)。
- (借方)建物附属設備 6,000,000 / (貸方)現金預金 6,000,000
決算時の減価償却(年40万2,000円)の仕訳は次のとおりです。
- (借方)減価償却費 402,000 / (貸方)建物附属設備 402,000(直接法)
賃貸物件の造作は、内容に応じて「建物」または「建物附属設備」で計上するのが一般的です。
30万円未満は少額減価償却資産の特例
中小企業者等の特例では、取得価額30万円未満の減価償却資産を、年間合計300万円まで取得時に一括で経費計上できます。小規模なパーティション追加や什器の入れ替えなどが対象になり得ます。適用には要件と期限があるため、活用前に最新の条件を確認してください。
資本的支出と修繕費の判断基準
内装関連の支出は、資産計上する「資本的支出」と、その年に経費化する「修繕費」に分かれます。ここを取り違えると否認リスクにつながるため、基準を押さえます。
資産計上(資本的支出)と一括経費(修繕費)の違い
建物などの価値を高めたり、使用可能期間を延ばしたりする支出は資本的支出として資産計上します。一方、元の状態に戻す・機能を維持する支出は修繕費として一括経費にできます。増床やグレードアップは前者、原状回復は後者に傾きます。
原状回復・維持管理は修繕費で処理
退去時の原状回復や、傷んだクロスの張替え、定期的なメンテナンスなど、現状維持のための支出は修繕費で処理するのが基本です。面倒に感じるかもしれませんが、工事内訳を「価値向上」か「現状維持」かで色分けするだけで判断はぐっと進みます。
判断に迷うときの判定フロー
迷ったときは次の順で確認すると整理できます。
- 明らかに価値向上・耐久性向上か → 該当すれば資本的支出
- 一つの修理・改良が20万円未満、または概ね3年周期の支出か → 該当すれば修繕費でよい
- 60万円未満、または前期末取得価額の10%以下か → 該当すれば修繕費として処理できる形式基準あり
金額基準には細かい要件があるため、大型工事は税理士に相談して区分を固めると安心です。
オフィス移転・中古取得で押さえる会計処理
ビルサク読者に多いオフィス移転や中古物件の取得では、内装費以外にも押さえるべき処理があります。実務でつまずきやすい点を整理します。
移転時の内装工事費・原状回復費用の扱い
移転では、新オフィスの内装工事費(資本的支出として資産計上)と、旧オフィスの原状回復費用(原則は修繕費)が同時に発生します。両者は性質が異なるため、混同せず分けて処理します。原状回復費用は退去が確定した事業年度の費用として扱うのが基本です。
賃借期間償却による節税メリット
更新不可・買取請求不可の定期借家契約であれば、内装造作を賃借期間で償却でき、通常の見積り年数より短期間で費用化できます。結果として各年度の償却費が大きくなり、課税所得を早期に圧縮できる可能性があります。契約形態の設計段階で、この点を意識しておくと有利に働きます。
中古物件取得・造作譲渡を受けた場合の耐用年数
前テナントから造作の譲渡を受けたり、中古で内装付き物件を取得したりした場合は、中古資産の耐用年数の見積り(簡便法など)を用います。法定耐用年数をそのまま使うのではなく、経過年数を反映した年数で償却する点に注意が必要です。譲渡を受けた造作は取得価額の算定も論点になるため、契約書と精算書を残しておきましょう。
よくある質問
この記事に関してよく寄せられる質問をまとめました。
内装工事の耐用年数は結局10年ですか、15年ですか?
自社所有物件の内装造作は15年前後が目安です。器具備品に区分される設備は短くなり、そこから「10年」という数字が出やすくなります。賃貸物件は合理的な見積り年数か、条件を満たせば賃借期間で償却します。まず物件形態と資産区分を確認するのが近道です。
賃貸オフィスの内装は必ず賃借期間で償却できますか?
いいえ。賃借期間で償却できるのは、賃借期間の定めがあり、かつ更新も造作の買取請求もできない場合に限られます。更新可能な契約では原則使えず、造作全体を合理的に見積もった年数で償却します。契約書の更新・買取に関する条項を確認してください。
内装工事費を一括で経費にできますか?
価値を高める工事は資本的支出として資産計上が原則で、一括経費にはできません。ただし原状回復や維持管理は修繕費で一括計上でき、取得価額30万円未満なら少額減価償却資産の特例(中小企業者等)で一括計上できる場合があります。
減価償却の方法は定額法と定率法どちらですか?
建物および建物附属設備は、原則として定額法で償却します。器具備品は資産によって選択の余地がある場合もありますが、区分と適用方法は最新の税制で確認するのが確実です。
判断に迷ったら誰に相談すればよいですか?
顧問税理士、または所轄の税務署に相談してください。工事の資産区分や資本的支出・修繕費の線引き、賃借期間償却の可否は個別事情で結論が変わります。見積書と契約書を手元に用意して相談すると、話がスムーズに進みます。
まとめ|内装工事の耐用年数は区分と物件形態で決まる
内装工事の耐用年数は、資産区分と物件形態の掛け合わせで決まります。数字の混在に惑わされず、自社か賃貸かをまず確認することが出発点です。
- 自社所有の内装造作は15年前後、器具備品は短めが目安
- 賃貸物件は国税庁タックスアンサーNo.5406を基準に、造作をまとめて合理的な年数で償却
- 更新不可・買取請求不可の契約なら賃借期間で償却でき、早期費用化が可能
- 工事内訳を資産区分に振り分け、資本的支出と修繕費を色分けする
- 移転・中古取得は原状回復費用や中古資産の見積り年数に注意
まずは手元の見積書を資産区分ごとに整理し、契約書の更新・買取条項を確認してみてください。ここまで押さえれば、税理士や税務署への相談も的確に進められ、否認リスクを抑えた自信ある会計処理につながります。